2024年度の情勢と活動

 1 内外の情勢

海外では、ウクライナやガザでの戦闘が続いています。国際法を無視したロシア、イスラエルによる攻撃に端を発し、各国が政治的・経済的に不安定な状況に置かれています。米国トランプ大統領の大幅関税引き上げなど、「自国第一主義」政策が、海外、国内ともに経済、財政、金融の大きな不安定材料となっていて、わが国経済への影響が懸念されています。世界的なインフレ、バブル化も加わり金融市場の不安定が引き続いています。

国内的では、昨年の衆院選に続き今年の参院選でも、与党が過半数割れとなり、自民一強体制のような強引な政策遂行は出来なくなりましたが、一部野党を取り込んだ政策ごとの部分連携で国会運営を乗り切っていこうとしています。

企業献金の禁止、社会保障の充実、消費税の引き下げ、選択的夫婦別姓の法制化など、国民が強く求める政策は、実現の条件と可能性に変化が出てきました。

今年の春闘ではこれまでにない一定程度の賃上げがあったものの、大幅な物価高騰のために実質賃金はマイナスとなっています。年金も、マクロ経済スライド制による減額で、物価上昇には及ばない増額となっています。

諸物価が高騰し、国民生活が困難に直面している中で、政府、日銀には有効な物価対策の実施が強く求められています。

 

2 年金を巡る動向

(A)公的年金

昨年の公的年金財政検証に基づく年金制度改定案が6月13日可決されました。改正点の概要は次の通りです。

被用者保険(厚生年金、健康保険)の適用拡大。賃金要件を撤廃し、週の労働時間が20時間以上の労働者は被用者保険に加入する。

在職老齢年金制度の見直し。支給停止となる収入基準額を、50万円から62万円に引き上げる。

遺族厚生年金の支給対象期間を見直し、男女間の差別を廃止する。60歳未満で配偶者が死別した場合には、支給期間を原則5年間とする。(その他例外措置あり)

厚生年金保険料の標準報酬月額上限の見直し。(65万から75万円への上限額の引き上げ、最高等級の改定ルールの見直し)その他、次の項目を「附則」として制定した。

(a)「2029年の財政検証の結果、基礎年金の給付水準が低下することが見込まれる場合には、基礎年金と厚生年金(報酬比例部分)のマクロ経済スライドの調整を同時に終了させるための法的措置を講ずる。

(b) 上記の措置(マクロ経済スライドの調整を同時期に終了させる)を講ずる場合に、年金額(基礎年金と厚生年金)が下がるときは、減少の緩和策を講ずる。

(c) 厚生年金(報酬比例部分)に対するマクロ経済スライドの調整を、2030年度まで継続する。ただし、厚生年金の受給者に不利にならないよう、伸びの抑制を緩やかにする。

 

このうち、⑤の附則(いわゆる基礎年金底上げ案)については、政府与党と立憲民主党だけの協議であらかじめ結論を得たうえで、国会で討議時間もあまりないまま成立させました。

このような重要な法案の上程を遅れに遅らせておきながら、「法案成立のための時間がない」という理由で、深い討議もされないまま、3党合意だけで成立させるというやり方はきわめて非民主的で、厳しく批判されなければなりません。

「基礎年金を底上げする」とは言っても、マクロ経済スライド制による減額は今後も続けられるわけで、基礎年金がⅤ字回復していくことではありません。現厚生年金受給者は、2026年度以降はマクロ経済スライド制による減額は停止するはずであったものが、2030年以降も続けられる可能性があります。

マクロ経済スライド制による年金の減額は今や完全に行き詰まっています。マクロ経済スライド制を撤廃し、年金制度は、国民的要求に基づく抜本的改定が求められています。

誰でも最低限の生活ができる水準の年金を実現させるには、全額国庫負担による「最低保障年金」の創設を真剣に検討する必要があります。この制度は、主な先進他国で採られている制度でもあり、わが国でもぜひ実現させなければなりません。

公的年金に係る積立金は260兆243億円(2025年度第一四半期末現在)となり、(給付総額の5年分超に相当)、年金積立金を計画的に活用しながら、減らない年金を目指す必要があります。

2013から2015年の連続した公的年金引き下げについては、これを違憲として全日本年金者組合員を中心に各地で提訴し、地裁、高裁で敗訴となり、最高裁に上告したものの棄却が相次いでいます。一部高裁で、国が自らの主張を部分的に変える不合理も露呈したり、最高裁で一部裁判官は、「現在の年金給付では生活安定が困難」とし、国に適切な施策充実を求める意見を述べている点は成果と言えます。

 

(B)企業年金

 

(1)近年の動向

2001年の企業年金二法(確定給付企業年金法および確定拠出年金法)制定の時、「支払保証制度創設についての検討」という付帯決議がつけられました。しかし、ITバブル崩壊、リーマンショック、AIJ事件など経ても、この付帯決議は棚上げのままにされてきました。

この間財界・政府は、企業年金制度の改悪を進め、厚生年金基金の代行返上と解散促進、キャッシュバランスプラン導入、リスク分担型確定給付年金制度を制定しました。

リスク分担型年金は、企業側にとってあまり使い勝手がよい制度ではないこともあり、更なる改悪がされる可能性があります。

2010年代になってから、確定拠出型企業年金を採用する企業や確定給付企業年金から確定拠出年金に移行する企業が増える傾向にあります。また、労働者自身の「自助努力」に基づく個人年金である「iDeCo」の拡充に力点を置いています。

 

(2)企業年金の本質をめぐる議論

厚労省の社保審企業年金・個人年金部会などでは、「企業年金は企業の福利厚生制度の一つである」とか、「企業年金を退職金制度由来の制度であるという議論をいつまでも続けるべきではない」と言った意見を述べる委員も出てきています。

しかし、企業年金は決して企業の「福利厚生制度」ではなく、賃金などと同じように労働条件のひとつであるという大原則を確認しておく必要があります。「賃金の後払い」として、退職労働者の老後生活をいかに保障していくか、そのことに企業が責任を負わなければなりません。

確定拠出型の場合、労働者自身で資産の運用を行わなければならず、投資に関して普通の労働者には専門知識もなく、激しく揺れ動く投資市場についていけず投資判断を誤る危険性がある等、果たして退職時までに老後生活に十分な年金資産が積み上がっているのか、非常に危うい面があります。「企業年金の受給権の保護」は、老後生活の保障という点から検討されるべきであります。

 

(3)企業年金をめぐる課題

 

キャッシュバランスプラン(給付が株式・債券など金融市況次第で変動する方)やリスク分担型確定給付年金(一定の条件の下で、受給額の減額が可能となる方式)といった、加入者と受給者にリスクとコストを転嫁させる動きについて注視していかなければなりません。

(b)確定拠出企業年金の普及が進められた場合、確定給付企業年金(基金型)から加入者が減少して、確定給付年金(規約型)に移行すれば、加入者が企業年金に対する意思表示の機会が消失します。

(c)定年延長に伴う確定給付の制度変更に当たり、年金受給額に増えた勤続年数を反映させないという「実質給付減額」を容認する議論が進められていることは看過できません。

(d)基金が解散した後、受給者の年金資産は「閉鎖型」とする方式へ移行する懸念があります。母体企業はコストカットとなるものの、受給権が侵害されぬよう警戒と監視が必要で、受給権侵害があれば受給者が団結して交渉する必要も出てきます。

(e)「選択制DB・選択制DC」は加入者の賃金を減らして、その分を拠出する仕組みであり、企業年金の本質から一段と逸脱するものです。企業側にとってはメリットあるものの、加入者は後年、社会保障の給付減少など不利となるものです。これが「議論の整理」に取り上げられていることは看過できません。

(f)「バイアウト」(注参照)については、経団連が企業年金・個人年金部会に提起したものの、実質審議がないまま「議論の整理」では今後の課題とされたことは警戒を要します。

(注・「バイアウト」とは、企業が年金の資産を給付債務とワンセットで

  生保などに譲渡するもので、リスクとコストを社外に転嫁、資産負債の圧縮・資本効率向上に繋げること)

(g)政府は、「資産運用立国」政策の下、公的年金の資産とともに企業年金の資産もこれに動員しようとしている。バブル崩壊への警戒論が強まっている中、「運用力の向上」などと称して、内外の資産運用企業が企業年金基金への働きかけを強めようとしています。資産運用の成果を求める競争が激化していくと、「ハイリスク・ハイリターンの追求」が強まり、安定運用・安定給付が基本の企業年金に背馳する懸念が高まります。

(h)「支払保証制度の創設」は国会で附帯決議をしたのに政府は24年間放置しています。経団連などが「支払い保証制度を作るとモラルハザードとなる」「財源が問題」など述べて反対のまま先送りしてきました。

アメリカをはじめ先進国には「支払い保証制度」があります。AIJ事件などでは多くの退職労働者が、基金の解散などで被害をこうむりました。この様な悲劇を避けるためにも、現役労働者、退職労働者を問わず、老後生活の保障となる企業年金の支払い保証制度の法制化は喫緊の課題です。わが国でも一日も早く実現させなければなりません。

 

 2025年の活動方針

以上の動向と問題点を踏まえ、会の目的、すなわち受給権の確立と支払保証制度の確立に向けて次の方針で活動します。

 

 1.経済界・政府の施策展開の把握と分析に取り組む

(1)社会保障審議会「企業年金・個人年金部会」の審議内容と施策の具体化。

(2)「資産運用立国プラン」に基づく施策の展開。

 

 2. 受給権侵害案件への対応

個別に受給権侵害などの問題が発生した場合は、相談、支援に取り組む。

 

 3. 学習と交流に取り組む

(1) 1項(1)に即して会員を中心に企業年金の政府施策の経過や新しい動向、海外の状況などについて学習。

(2) 基金の決算分析、財務内容把握手法、厚労省令・政令・ガイドラインなどの学習。

(3) 会員相互の活動経験の交流。

(4)「会」のホームページをもっと充実させ、アクセスしてもらえるよう努める。

 

 4. 企業年金施策の動向について広報活動に取り組む

1.2.3項の内容に即して受給者を主とし加入者にも視野を広げてホームページを活用して情報と知識の共有に努める。

 

5. 組織の拡大強化を図る

かつて企業・大学が、企業年金の減額・改悪を強行し、裁判や反対運動が起きたことから、受給者は企業年金基金ごとに組織をつくり活動を展開し、当会は相互の連帯活動、裁判闘争支援を進めてきた。裁判闘争など一段落が続く下で、引き続き受給権を守るためには基金・企業単位での有志が参画する組織(以下「単会」と略称)を広げることが求められており、次の方向を目ざす。

〇問題意識をもつ有志を当会の個人会員として迎え共に活動に取り組む。

〇個人会員が基金ごとの単位に複数集って単会へ進展する取り組みを支援する。

 

 

 6. 他団体・厚労省などへの働きかけ

連合、全日本年金者組合、全労連など他団体(退職者会、受給者会等)

と懇談し交流する。

(2) 厚労省、企業年金・個人年金部会、政党に要請や問い質しを行なう。

 

団体